ふくやまけいこ - オリヒメ/ヒコボシ
少々悩んだ末に、ふくやまけいこ評をもう一つ書くことにした。
前回のエントリーを書いた時点で、私はこの二冊の短篇集を読んでいなかった。
読んだことで、彼女に対する評価がかなり変わってしまったのだ。
彼女の長編は、先に書いた通り、少々物足りないものが多い。
読んでほっとするような和みの良さはあるものの、優し過ぎて平坦に感じるのである。
けれど、この二冊の短篇集に収録された物語の数々は、どれも素晴らしい。
珠玉の、という言葉が全く違和感がない。
彼女の才能は短編にこそ生きていると強く感じた。
一作品が5ページという大変短い短編ばかりで、物語としてはきちんと終わっていないと感じるものもあるのだけど、この短い中に、彼女はどれほど細やかな愛情を注いでいるか。
登場人物はいずれも活き活きとし、心優しく、そこに示される出来事はいずれも心に残る。
心の中の涙腺を妙に刺激してくれるエッセンスが、どのページを開いても満ち満ちている。
私はこれを読んで、稲垣足穂の「一千一秒物語」を思い出した。
時代の全く異なる作家だし、描かれる世界も全く異なるのだが、優しさに満ち足りた雰囲気が似ているのだ。
これは間違いなく名作である。
大人にも子供にも読ませたい短篇集である。
なお、リリース年は短篇集「オリヒメ」の刊行年に合わせておいたが、多くは2005年~2007年の作品。
けれどおそらく、掲載誌で短編一作のみを読んだのであれば、ここまで充実した作品群だと気が付かないのではないか。
短篇集としてまとめられたからこそ、作品群の素晴らしさがより伝わってくるのだと思う。
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