たかみち - 百万畳ラビリンス
ゲームステージ感覚の異次元に放り込まれた時、貴方はいかにして脱出を試み、そこから何を得ることが出来るだろう。
得てしてパターン化されがちな「不気味で奇妙な物語」が、いつのまにか発見ワクワク感に満ちていく流れがとても心地良い。
仮想現実っぽい世界に放り込まれ、そこから脱出を図る物語というのは、既にそれなりのジャンルを形成している。
物語としては既に手垢が付いた感のある設定なので、あとはどう新しい要素を組み込み、いかに斬新な解釈を行うか、そして主人公たちにいかなる恐怖を味合わせ、どう感情的に盛り上がれるかが、作品としての勝負になるものだろう。
この作品も、そういう流れの作品か…と思われたのだが、読み進んでみると、とても良い意味で、期待は裏切られた。
まず、恐怖感はほとんど無い。
その世界がどういうルールで出来上がっているのかを発見していくのが、とても心地よく楽しい。
プログラムの穴を見つけ、そこから攻略パターンを推察し、試してみる。
それが成功したときの楽しさ。
なんとあっけらかんとしていることか。
オドロオドロしいアドベンチャーというより、むしろパズルゲームをさくさく解いていくようなノリである。
あえてネタバレで一つだけ書かせてもらうが、特に「ちゃぶ台合わせ鏡」のアイデアには、素晴らしいいセンス・オブ・ワンダーを感じさせてもらった。
多分これだけで、5回はおかわりできるっすよ。
この「あっけらかん」には、主人公のキャラクター造形が大きく影響している。
生活感のまるでないキャラクターだけに、とんでもない非日常を楽しんでしまっていることに、つい納得してしまうのだ。
現実にはおそらく、こういう性格は極端過ぎて、どう接していいかも分からなくなりそうなのだが…けれど、この世界観では、確かに最強なキャラクターなのかもしれない。
一方で、主人公に振り回される第2の主人公の女性こそが、一般的な視野を持った常識人なのであり、彼女の存在によって、この特殊な世界観は日常的な足がかりを維持できているのだと思う。
この人物配置は、物語を魅せる上で、最良の配置だろう。
そして最後まで読んで。
なんというか、ものすごく丁寧に構築されたSF短編小説を読破したときの、「ワクワク感に満ちた楽しさ」が味わえた。
作り物の物語として、日常から切り離れたところで成立しているのだと納得した上で、でもアイデアや作り込みの素晴らしさで、素直に「よく出来た、とても楽しい物語」だと思えてしまう。
尺としても、多分、これ以上短くしては物足りないし、長くしたら、だれてしまうだろう。
だから。
また次の作品に期待しなきゃね。

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