ふくやまけいこ - グラニュー島とカリンちゃん
私はかねてより、ふくやまけいこは惜しい漫画家だと思っている。
絵はとてもとても上手いのだけど、物語がどこか物足りない。
登場人物が誰も彼も優し過ぎて、だからストーリーに緊張感が無い。
けれど、その優しさの表現が半端ないので、実にもったいないのだ。
普通のマンガだと、優し過ぎる人物は、むしろ異常に見えかねない。
マンガが劇画を吸収して、リアルな表現に近づいた分、マンガの登場人物にもリアルな感情が期待されてしまう。
だからいまどきの登場人物はそれなりにコンプレックスを抱いており、それなりに皮肉も言えて、怒りや悲しみや無常を内心に溜め込んでいる。
そういう人物でないと、読者も共感できないのである。
けれど、彼女のマンガは、今どき有り得ないほど、人が優しい。
悪者すら優しい。
優しくて素直で明るく、皆が人のために役立つことを願っているかのようだ。
無垢なのである。
そうした無垢さを素直に表現できる人なのだ。
そして何よりも凄いのは、彼女のその無垢な素直さが、読者にもきちんと届くということだ。
こういう漫画家は、今や大変珍しいのである。
けれど、こうした人物だけでストーリーを動かすのは、大変難しい。
良い人ばかりの物語は、いかによく出来た物語であろうと、大抵、退屈なのである。
しかし、そんな彼女だからこそ、描ける世界もある。
この本のタイトルは、実は2つの作品のタイトルを足したものだ。
ひとつは「グラニュー島!大冒険」で、もうひとつは「やっタネ!カリンちゃん」。
前者は1998年から「なかよし」に、後者は2001年から「小学二年生」に連載されたマンガである。
日常にファンタジー要素を詰め込み、子どもの冒険心をくすぐり、悪者を倒し、皆を助ける。
お菓子や花を効果的に小道具に使い、変身願望も叶え、そこに少しだけ、乙女ちっくな恋愛感情のエッセンスも。
子どものためのマンガであり、少ないページ数でコマ割りも大きいのだが、物語のスケールは予想外に大きい。
複雑な心理描写は無いのだけど、ハラハラしたり、ワクワクしたり、悲しかったり、嬉しかったり、そんな感情に溢れている。
こういう小さな子ども向けの物語を描かせたら、彼女にかなう者は滅多にいないんじゃなかろうか。
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