きくち正太 - おせん
色っぽい女主人を主人公に、粋とシモネタ親父ギャグを交えつつ、食のうんちくを主題にした漫画。
グルメ漫画の類(たぐい)は今では決して珍しくないが、この漫画の食へのこだわりは「和」と「風流」に徹しており、普段着の世界とは少々次元が異なる。
基本はもちろん、旬のものを旬の味を逃がさずに楽しむことなのだが、調理に手を抜こうが、手間をかけようが、そこに常に「粋」が感じられるあたりがきくち流のようだ。
食材の入手から調理盛り付けに至るまで丁寧に描くが、この食材や料理、更には食器の絵がとんでもなく精緻で、これがいかにも美味そうなのだ。
きくち氏は、かつてはGペンで絵を描いていたはずだが、途中からガラスペンに切り替えている。
ガラスペンで絵を描く漫画家は、かなり珍しい。
食べ物や和食器をより細やかに描くために、あえてガラスペンに代えたらしい。
この細やかな料理の絵と、色っぽく大胆にデフォルメされた女性絵の対比が、和に拘った独特の世界観を作り上げている。
食に限らず、和や日本文化を主題とする回もあり、これはこれで奥深い。
ちなみに同作者の「きりきり亭のぶら雲先生」もほぼ同じ主題の漫画で、主人公の容姿も似ているため、時折私はどちらを読んでいるか、分からなくなる。
実は作者も、どちらを描いているか分からなくなった時があるらしい。
強いて言うなら「きりきり亭」の方が、より下品かつ色っぽいのだが。