山下和美 - 天才柳沢教授の生活
規則正しい生活と順法精神の徹底した、変人の大学教授が主人公の短編集。
初期には、彼の性格から派生するはた迷惑な事件をユーモアたっぷりに描くことが多かったが、次第に彼の性格を生かしたヒューマンドラマに移行。
心温まるエピソードが膨大になるにつれ、支持も広がった。
彼の性格は、「生真面目」「極端なほど誠実」「表裏がない」「疑問は解決しないと気が済まない」「正論を何よりも尊ぶ」「邪心を一切持たない」「本の収集以外の欲がない」など。
これは言い換えるなら、「大人の知恵」と「幼児の純粋」を持つ人物である。
普通ならここまでの純粋培養などありえないことだが、大学教授という設定が、これをありえそうな設定に見せてくれている。
実は主人公のモデルは、実際に大学の教授をしていた、筆者の父だと言う。
家族の設定もなかなかユニークだ。
子供は娘ばかり4人で、娘婿は編集者だったり、漫画家だったり。
一番下の娘は教授と同じ大学の生徒であり、そのボーイフレンドは化粧やピアスでハデなロック小僧だが、小心者で心優しい。
途中で、拾ってきた猫も家族に加わる。
私がこの作品を支持するのは、その心豊かな人間肯定による。
作中には歪な人、悩める人、ごく普通の人、様々な人間が出てくる。
彼らが教授と出会うことで、彼らの中の素晴らしい部分、愛すべき部分が見えてくる。
人を観察し、人を愛せる人でなければ、こういうドラマは描けないだろう。
なお、最初に短編集と書いたが、第2期のこの漫画は戦後直後を背景にした長編。
この内容がまた感涙ものである。