三山のぼる - メフィスト
流動玲二は降魔の儀式のために虐殺を繰り返す残忍な変質者だった。
彼は最後の殺人で魔女アルマの降魔に成功するが、殺人罪で逮捕される。
魔女アルマは玲二に興味を持ち、彼を助け出す。
だが、二人の迷い込んだ先は、魔女狩りの時代の中世だった。
メフィストの前半は、アルマと玲二の物語である。
中世の残忍な処刑や、みだらな貴族社会の描写は、三山としても会心の出来ではないかと思う。
三山の描写は的確で、特にアルマの裸体の造形は素晴らしく美しい。
エロティックであり、肉感的である。
にも関わらず、不思議と、どこか生々しさが希薄だ。
美術品の域に入り込んでいて、まるで彫像のようなのだ。
一方で、男の描写はどこか滑稽さがあり、それが残忍な物語に、息の吐ける余地を作り出している。
後半は、玲二は登場しない。
アルマは少し変わった薬局を経営していて、そこに来る客の相談に乗り、魔力で彼らを助ける、という短編奇譚集に変わっている。
このパターンは、手塚治虫の「ブラックジャック」や藤子不二雄Ⓐの「笑ゥせぇるすまん」に近い。
だが、三山の描く世界は明確にアダルトであり、エロスが充満している。
しかし、裸体や性的な描写があっても、そこには猥褻さはほとんど感じられない。
これは、三山の優れたデッサン力と、几帳面で硬めのページ構成、そして柔らかさの残る暖かい描線という組み合わせによって生まれた、魔法のようなバランスなのだろうと思う。