私が彼女の歌を聴きだしたのは何時からだっただろう。
昔のことだから、もうあやふやだ。
でも、これだけは分かっている。
私が彼女の声を、彼女の声だと認識したうえできちんと聴いた時には、彼女はもう旅立った後だった。

彼女が亡くなったのは1970年の10月4日だ。
わずか27歳だった。

彼女が亡くなった後、レコーディングの途中だった断片を集め、アルバム「Pearl」がまとめられた。
その中の最初の曲が、この「Move Over」だった。

私は当時はまだガキで、ろくに知識も無いまま、いろんな音楽を聴き始めたばかりだった。
誰かに勧められて聴いたのかもしれない。
聴いて、なんて凄い声だろうと思った。

力強い声。
美声というわけではないが、なんと魅力的な、なんと暖かい声だろう。

その時は、すでに彼女が旅立っていた事に、まだ私は気付いていなかったかもしれない。
でも、いずれにせよ、すぐにその事実を知ることになった。

彼女は逞しくて、優しくて、寂しがり屋で、いつだって愛情に溢れていた。
そんな逸話が、あちこちで感傷的に語られていたからだ。

彼女は旅立っていたけれど、彼女の声は、今も沢山の人を励ましている。
だから彼女の歌はいつまでも残る。

今でも私はそう思っている。