魔神ぐり子 - 楽屋裏
センスのいい喧嘩、笑いの取れる罵り合い、愛情たっぷりの掴み合い。
そういうことが出来る関係には憧れる。
口汚く罵り合って、本気で腹を立てて、それでも信頼関係が壊れないほどの友情とは、なんと素晴らしいものだろう。
普通、こういう関係は、兄弟姉妹や幼馴染以外では難しい。
兄弟姉妹であっても、関係が壊れて修復できなくなる例もある。
学生時代の腐れ縁とか、趣味にどっぷり漬かった協力関係とか、そういうのでもない限り、こういう関係は滅多に作れるものではない。
「楽屋裏」と題されたこの漫画は、ほぼ全編、漫画家と担当者との罵り合いだけで構成された漫画エッセイである。
(と思い込んでいたが、読み直してみたら「ほぼ全編」ってことはなかった。半分くらい?)
締め切りを守らせるために、漫画を描かせるために必死の担当者と、締め切りを伸ばして欲しくて、ネタに困って、あるいは単に担当者をからかいたくて、言い訳や嘘、とんでもない希望的発言を繰り返す漫画家。
常識人と非常識人との、電話越しの戦いが、この漫画で延々暴露されているのだ。
その壮絶な戦いは、あまりに笑える。
罵り合いは、普通なら周囲を暗くさせるものだが、楽屋裏のそれは、あまりに面白過ぎる。
これは罵声の形を借りた漫才であり、コントとしか思えない。
この漫画がどこまで本当かは判らない。
ただ、非常識人として描かれている漫画家が、実は常識を知っていることは容易に判る。
常識を理解しない者は、非常識なネタをきちんと料理できないからだ。
かつて私が子供の頃大好きだったアニメの主題歌は、「仲良く喧嘩しな」と歌っていた。
仲の良い喧嘩は、いかにそれが壮絶な罵声を含んでいようとも、微笑ましいものなのだ。