鈴木みそ - 限界集落温泉

10月 2 2013

ひなび過ぎて潰れかけた温泉旅館に突然現れた、借金から逃げてきたゲーム・クリエイター、溝田と、自殺願望を抱えた天然ネットアイドル、アユ。
そしてそのネットアイドルを追いかけてきたオタクたち。
偶然の出会いが、彼らを温泉旅館の救世主としていく。

この物語は凄い。
何が凄いって、溝田の企画力だ。

いい加減な嘘を舌先三寸で適当に交えながら、周囲を巻き込み、潰れかけた温泉旅館を、無理やり再営業させていく。
それに乗せられていくアユもオタクたちも、不審と思いつつも、損はしないからと、いつの間にか一緒に楽しんでいる。
気がつけば、マスコミを巻き込み、温泉街を巻き込み、話はどんどん膨らんでいく。

最終ゴールとして目指すのは、温泉旅館の奇跡の復活。
果たしてこのゴールは成り得るのか?

もちろんこんなことは、現実には起こりえないだろう。
この物語には、ストーリーが流れるために必要な要素が、人が、巧妙に、そして注意深く配置されている。
そうした要素をいくつか外してしまえば、こんなことは起こりえるとは思えない。

けれど、たまたまこうした要素が揃ってしまったら、本当にこんな物語が成立してしまうのではないか。
確かに、このタイミングで、このシーンで、こう言われてしまったら、俺もこう動いちゃうかもしれないなぁ。
そう思わせるだけのリアリティーが、確かにこの物語にはある。

魔法でもなく、ただのファンタジーでもなく、磨かれた才能と、ちょっとした偶然がいくつか重なることで、その大半は、確かに十分有り得る展開なのだ。

優れたドラマとは、こういうものだろう。
だからこそ、ドラマは人を楽しくする。
だからこそ、優れたドラマは、見た者の未来さえをも、変えていくのだ。

これはぜひ、映画にして欲しいなぁ。
アユ役を誰がやるのか、実に悩ましい事だろうけれども。

リリース: 
2009年

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