あすなひろし - けさらんぱさらん

7月 25 2015

リリカルと言ってもいい、繊細な感情のひだを、美しく繊細に描画したかと思うと、暴力的なほどの荒々しい漢の衝動を、力強い硬派の線で鮮やかに刻みつける。
明るいコミカルな軽妙さ。思春期独自のセンチメンタリズム。
彼はそうしたものを全て抱えた作家だった。

久しぶりにあすなひろしのマンガを広げてみた。
彼は当時でも珍しい、少女漫画と、青年向き劇画と、そして少年マンガを、縦横に往復できる稀有な漫画家だったのだと、改めて納得する。

日本のマンガが、子供向けから、大人の鑑賞に耐えるものに成長していった時期、その時代でも最も美しい洗練さと文学性を感じさせていたのが、あすなであり、真崎守であり、永島慎二であった。
彼らは少年期から青年期の、感受性の最も敏感な時期を、鮮明に、鮮やかに、ペンで画用紙に描きだした。

マンガという形式は、手塚治虫が大きく改革させてきたが、それでもなお、それは子供に読ませるための物語であった。
それに反発し、そこに足らない、より大人向きの、暴力的な表現を求めて、貸本文化の中から劇画が登場した。
一方で、少女向けの美人画と挿絵からのアプローチが、少年マンガの文法と融合し、少女漫画独自の描画と文学性を進化させていった。

これらを更に融合させたのが、彼らだった。

あすなは少女漫画でデビューしている。
その美しく軽妙なペンタッチは、まさしく少女漫画のものだし、主人公たちの心のひだを繊細に丹念に描ける感受性も、間違いなく少女漫画のものだ。
しかし同時に、荒々しい暴力的な描写も、軽妙でコミカルな笑いも、容易く同じ画面の中に封じ込めることが出来た。

けれど、読後感は常に晴れやかで、鮮やかで、それでいてさみしい。
明るくて、きらめいていて、深々と虚しさがつのる。

今読みなおしても、古さは感じない。
流石に時代は感じさせるが、読むと当時の新鮮な清々しさが、ピュアで鋭利な感情が、ページから香しく立ち昇ってくる。

あすなひろしは、2001年、肺癌のため死去している。享年60歳であった。

「けさらんぱさらん」は、単行本「いつも春のよう」に収録されている。

p.s.
今回あすなを読み返して気がついた。
たがみよしひさは、あすなの血を最も濃厚に受け継いだ漫画家だったかもしれない。

リリース: 
1978年

あすなひろしOfficial Site
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