武富健治 - 鈴木先生
共学の中学校に勤める鈴木先生は、常に徹底して生徒を理解しようとする。
何故その生徒は、そのような行動を取ったのか。
何故その生徒はそこに拘り、感情的になるのか。
何故その生徒は、この事実を知っているのか。
悪い事をした生徒を叱るだけでは、何も解決していないと考えるからだ。
何故したのかを突き止め、生徒本人も気が付いていない心の動きを見つけてやらないと、生徒の心は救われない。
しかし、これを突き止めるのは大変なことだ。
そのような気が遠くなる作業をしっかりやろうとする先生というだけでも、私は尊敬の念を抱く。
だが鈴木先生は、決して理想だけの存在ではない。
彼の中には煩悩も迷いもある。
意図的ではないとはいえ、同僚を傷つけてしまうこともある。
なまじ理解力や思考力が優れているだけに、自分に人間として未熟なところもあることにも気が付かざるをえない。
この漫画の尋常ではないところは、その鈴木先生の内面を徹底的に洗い出し、思考を具体的にさらけ出させ、読者に読ませることだ。
内面の葛藤こそが、この漫画の主人公なのである。
1巻だけを読んでも、この漫画の凄さは分からないと思う。
むしろ肩透かしと感じるかもしれない。
しかし、巻を追うごとに、内面のドグマが噴出してくる。
生徒一人一人の描き方も丁寧で、ある意味露悪的に感じるぐらいだ。
しかし、そこまで掘り下げたからこそ、この漫画は支持されたのだろう。
2007年、文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞している。