矢口高雄 - 釣りキチ三平
私は大人になってからは、ほとんど釣りに行ったことがない。
釣りにはたいして興味がないのだ。
だから、今ひとつ、三平くんのはしゃぎっぷりは理解できない。
けれど不思議なことに、矢口氏の漫画は、どれも結構好きだ。
おそらく私は、矢口氏の描く、山や沢の絵が好きなのだ。
彼の絵は、子供は結構デフォルメして描くが、基本的に、とても写実的である。
だが、その線は常に美しく、汚れや迷いを感じさせない。
山は緑を讃え、沢は清流で、周囲にはトンボが飛び交う。
幻想的なほど美化された自然が、かつて子供の頃に遊んでいた美しい自然が、そこにはある。
私は子供の頃、夏になると毎日のように自転車を漕ぎ、いくつも山を越えたところにある川辺まで行き、遊んでいた。
そこは自然公園のようになっていて、水の流れが穏やかで、底も浅かったが、ほんの少し上流に行けば、飛び込んでも川の底につかないほどの溜まりもあった。
そういう場所で、夕方、唇が紫色になるまで、毎日のように泳いでいた。
矢口氏は、そんな懐かしい風景を思い出させてくれる。
そしてまた、矢口氏の描く厳しい自然の風景は、日本独特の情緒を強く感じさせてくれる。
「釣りキチ三平」がもっと好きな人にとっては、私の「好き」は、いまいち納得できないかもしれない。
でも、そういう「好き」もあることは、どうか分かってほしいと思う。
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