沙村広明 - 波よ聞いてくれ
酒場で男に騙された恨みを洗いざらしぶっちゃけた主人公ミナレは、翌日職場で、そのクダ巻きがラジオからそのまま流れてきて、慌てる。
自分の声が録音されていた? そのまま流されたらヤバすぎるって!
そういえば、呑んでた隣の席は、ラジオ局のいかにも怪しげな人だった!!
何はともあれ勢いだけでラジオ局に乗り込んだミナレは、苦情を言おうとするが、何故かラジオでそのまま話すハメに。
ラジオ局の麻藤は素人女ミナレに、ラジオの番組をやれとそそのかす。
クダ巻きを一度も噛まずに話せたミナレの声が気に入ったらしい。
店から首を宣言され、男に金も盗まれていたミナレは、胡散臭げなその話を…。
沙村広明らしくない話なので、まず驚いた。
人が死にそうでないし、血生臭くもない。
SFでもなく、ファンタジーでもない(少なくとも今のところは)。
普通の素人が偶然ラジオの世界に首を突っ込むはめになるという、ちょいとレトロ風味な現代を舞台にした、いかにも波瀾万丈っぽいサクセス・ストーリーなのである。
しかし、沙村広明らしい話芸が山ほど詰まっている。
ミナレの会話も思考も完全に話芸の域で、ボケと突っ込みの嵐だ。
麻藤のキャラはいかにもマスコミ崩れで実に胡散臭いが、どこか夢を追っている少年ぽさが残っている。
ミナレの勤めるカレー屋のマスターは色物系だが実に味がある。
カレー屋に舞い込んできたマキエさんは色々事情を抱えてそうだし。
ミナレが追い出されたアパートの下の部屋の男は、新興宗教系(?)で妙に怪しいが、もし後からファンタジー要素(や血なまぐさい要素)が絡み始めるとしたら、この男からなんだろうな。。。
このキャラクター達とこの展開なら、いくらでもボケと突っ込み、殺伐としたギャグも脳天気なギャグも繰り出せそうだ。
元々、画力は素晴らしい作家であり、構成力も高く、ギャグの切れもいい。
過去の作品でも、登場人物たちの天然の少し入った壮絶なボケと突っ込みは、殺伐とした展開の中にあって、血生臭さを消し去る消臭剤、もとい、清涼感を高める香しさを強く感じさせていた。
少々、いや多分に殺伐とした展開が多い作家だが、人の闇も人の情もしっかり描ける人なのである。
「無限の住人」ではおそらく千人以上殺してきた作家だから、殺すことに飽きて日常に舞台を変えるならそれもアリだろう。
そして、それが面白い作品なら、十分に嬉しい。
ちなみに、第一話のみはここで読める。
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