森下裕美 - 大阪ハムレット
恋愛や愛情、そして様々な人間関係を描いた短編マンガ集。
時に笑いを、悲しみを、愛憎を描く彼女の視点は、常に大変厳しく、同時に、とても情が深い。
厳しく突き放しながらも、あんたは一人だけとちゃうでと、森下はきちんと見守っている。
それは彼女が、人とは滑稽で、情けなくて、かっこ悪いものだと分かっているからだ。
嫉妬したり、悩んだり、素直になれなかったり、気弱になったり、つい騙そうとしてしまったり、そういう欠点だらけの人間を、そのまま受け入れているからだ。
このマンガの登場人物は、その大半が、薄幸な人生を送っている。
理想とは異なる人生の中で、苦悩し、もがいている。
美人美女も、常にどこか弱かったり、強く悩んでいたりする。
そうした苦悩の物語だから「ハムレット」なのだろう。
けれど、その厳しい人生の中、その厳しさの隙間から、やわらかな希望を見つけられる、そういう物語が、この本にはたくさん詰まっている。
テーマはハムレットだが、決してバッドエンドではない物語が。
森下の絵は、硬質の線で、構図に隙が無い。
だが、その登場人物たちは、とても人間臭い。
しかも、不細工だったり、情けなかったり、その描き方は容赦が無い。
だが、その容赦の無さの向こうに、優しい視線が垣間見える。
人の苦悩や醜さ、嫉妬や恨みを、これだけ突き放しつつ、愛情深く描ける作家は、そうはいないと私は思う。