卯月妙子 - 人間仮免中
卯月妙子を知っている人は、少々特殊だろう。
漫画家としては、さほど有名ではない。著作も少ない。
けれど、彼女の作品には独特の毒と安らぎがある。
毒を許せない読者と、感動する読者に、読者は確実に割れると思う。
実は彼女は元AV女優である。
彼女については、中学生の頃に自殺未遂を起こしていること、元夫の作った膨大な借金を返したこと、そのためにAVに出演し、排泄物やミミズを食べるなどの過激なパフォーマンスをやったこと、総合失調症という大きな問題を抱えていることなどが知られている。
何故知られているかと言えば、それは彼女が赤裸々に、過去の作品の中で全てを語っているからだ。
私は以前、彼女の作品を偶然に読んだ時に、これほど壮絶な人生を送っている人がいるのか、こんな特殊な人生もあるのかと、少なからずショックを受けた。
決して絵は上手くはないのだが、彼女の誠意や気迫が、絵から滲み出ていた。
けれど、2000年から2002年にかけて数冊の本を出した後、彼女は沈黙してしまう。
気にはなっていたが、数冊で消える漫画家なんてザラである。
だから、彼女の本は大事に残しつつ、意識の中からは消していたのだが。
2012年にこの本が出た。
私はしばらく気が付かなかった。
しかし、手にとって、読んで、心臓が止まりそうになった。
震えが走った。
彼女は総合失調症が悪化し、自傷行為を繰り返していた。
過量服薬が止められなくなり、何度も自殺未遂を行っていた。
2007年には投身自殺を図り、顔面崩壊と片眼を失明する大怪我を負っていた。
そこからなんとか復帰し、彼女はこの「人間仮免中」を描き上げたのだ。
この本は、彼女の投身自殺から始まる。
あまりに悲惨な実録であり、しかも特殊な人生である。
一般的な総合失調症に対しては、全く参考にならないだろうし、参考にしてはいけないはずだ。
彼女の感情や選択に共感できる人も、決して多くはないはずだ。
悪趣味だと言われれば、返す言葉もない。
けれど、予想される脚色を差し引いても、読後感は重く、そして切ない。
壮絶な人生を客観的に描こうとしている姿勢そのものが、心に迫るのだ。
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