こうの史代 - 夕凪の街 桜の国

8月 8 2013

原爆投下によって被爆し、生き延びた人々の思いを、被爆者、被爆2世、3世のそれぞれの視点で描いたマンガだ。
3部作になっていて、計98ページ。
ボリュームのある作品ではないが、この作品から伝わってくるものは多い。

こうのは少し不思議な漫画家で、勢いのある線を使わない。
あえて勢いを殺した線を使う。
いや、もしかしたら、勢いのある線を描けないのかもしれないが、ともかく彼女の描く線は少し震えの入った頼りない線で、どこか弱弱しい。

それが感情を抑えた、穏やかな表現に見える。
淡々とした生活観や日常性を感じさせる。
どこか侘び寂を感じさせるときもある。
と同時に、厳しさに耐え、震えているように見える時もある。

世代は全く違うが、私は滝田ゆうの描線を思い出す。
彼もまた、不器用で優しく、心の表現に長けた人であった。

だが、大きく異なるのは目だ。
滝田の目は、いつも直視を避けていた。
しかし彼女の眼はまっすぐに届いてくる。
そこには怒りも無く、政治的な訴えも無く、ただまっすぐに私たちに届く。

おそらくは意図的に、この作品においては、原爆そのものについては、ほとんど語られていない。
ただ等身大に知って欲しいという気持ちだけが、そこにあるように思える。

2004年度の文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、2005年には手塚治虫文化賞新生賞を受賞している。

私は彼女を、人一倍誠実な人なのだろうと思う。

リリース: 
2004年

enlightened私も好き♪/嫌い」への投票は、ユーザー登録なしでもできるようになっています。
ただし、トップページのように、本文の一部しか表示されていない場所では投票できません。
タイトルもしくは「この続きを読む」をクリックして、全文を表示させてから投票してください。
投票は、実際に視聴したことのある作品に対してのみ行うようにしてください。
ユーザー登録なしでの投票は、通常、約24時間後に反映されます。