かわぐちかいじ - 沈黙の艦隊

8月 9 2015

連載当時、軍事関連のマンガなど、滅多に無かったはずだ。
だが、原子力潜水艦が逃亡するというストーリーは、いつしか国際政治の可能性論まで膨らみ、多くの人がこの本に注目するようになった。
国会においてすら、このマンガの話題が出たぐらいだ。

これの連載開始は1988年だから、もう27年も前である。
それから8年かけ、1996年にこのマンガの連載は終了した。
マンガの中で描かれた事件は、わずか2ヶ月分でしかない。
だが、8年分の濃厚さを持った、2ヶ月分のドラマでもあった。

ベルリンの壁の崩壊が1989年、翌90年に東西ドイツは再統合。
ソ連が崩壊しロシアになったのが1991年。
イラクの湾岸戦争も同年である。
また、今や当たり前になったインターネットも、アメリカで商用運営が始まったのは1988年、つまりこのマンガの連載当時である。
日本国内を見るなら、リクルート事件が1988年、オウム真理教の地下鉄サリン事件が1995年である。

時代が大きく動いた時期だった。
沈黙の艦隊は、この時代に引っ張られ、時代の波に乗ったマンガでもあった。

この漫画、当初の構想では、ここまで大きな問題提起を含んでいなかったはずである。
主人公の海江田のキャラクターも、おそらく途中で何度か構築しなおしている。
描き進んでいるうちに、時代に引っ張られ、構想が大きく膨らんだことは間違いあるまい。
それは時代の要請であったと同時に、かわぐち氏のアンテナの鋭敏さでもあった。

ただ、読み返して驚くのは、世界情勢はこの四半世紀の間にそれなりに変わったはずなのに、このマンガに流れるテーマは、今も全く古びていないということである。

国連はどうあるべきなのか、アメリカは今後も世界の警察であるべきなのか。
それは世界の平和をいかにして維持するかという真摯なテーマであり、今の世相においてもなんら変わらない問題提起となっているように見える。

連載当時、湾岸戦争において、PKOで自衛隊が派遣されることの是非が国会で論争されていた。
今、集団的自衛権について論争されていることは、ある意味、当時の繰り返しでもあるかもしれない。

当時の湾岸戦争で、きな臭かった中東は、今もISILのテロで、きな臭い。
アメリカは世界の警察を辞めると宣言したが、ウクライナ問題やISIL問題には結局関与しているし、今や中国の無茶ぶりをいかに止めるかが大きな国際問題となりつつあるが、国連はこれに対して無力なままだ。
冷戦は確かに終わったが、世界は一向に平和になる気配ではない。

このマンガで投げかけられた大きな問題提起は、今も私達にとって大きな問題であり続けているのである。

この作品は1990年に講談社漫画賞一般部門を受賞している。

リリース: 
1988年

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